高貴な光が失われる日
すべてを隠さずに語ろうとは思わないし、かつての過ちは誰にも告げずに墓まで持ってゆく。
だがそれは、すべてを一人で抱え込む事とは違うのだと、30年生きて私はようやく理解できた。
教えてくれたのは、臣下である唯一の友。他愛ない話をしながら酒に付き合ってくれるだけで、暫し国王ではない自分でいられる。それだけで救われており、それだけで十分だと思っていた。
しかし、友は私を、沼に沈みゆくしかできない私の手をつかみ、引きあげてくれた。
……友がいて、よかった。オルフェが友でいてくれて、よかった。

「ふむ。」

長年の蟠りが嘘のように晴れ、徹夜であったというのに気分は悪くない。
一人になった私室。カーテンを開けると、夜明けの光が優しく部屋に満ちた。窓から望む城下には、早起きの人影がちらほらと動いている。その中に、見覚えのある大きな人物を見つけた。

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| 創作覚書 | 19:55 | comments(0) |
国王の浸食 三
「警備隊長に、現副隊長である、シルヴィア・ヘルムフリートを推薦いたします。」

もう表舞台に出ることがなくなったセイルーン小国国王は、椅子に座ったまま、私をただ眺めている。
視界の端には埃をかぶった小さなワインセラーがあった。使われている様子はなく、温度を保つための魔石は、取り換えられることなく朽ちていた。
私は、何もできなかったのだ。
 
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| 創作覚書 | 03:58 | comments(0) |
国王の浸食 二
「……陛下、お呼びでしょうか。」

久方ぶりに足を踏み入れた国王陛下の私室からは、かつての明るさは消え去っていた。
荘厳な部屋の造りは陰鬱な空気を際立たせ、部屋の主の暗い影は重々しい湿度となり、さながら貴人の牢獄であった。
じとりと重い空気のなか、唯一湿度を感じさせないのは、膝をつく私を、眺める視線。

「娘は、またあの神官と一緒か」

変わらず美しい双眸にかつての柔らかい光はなく、その赤は僅かに濁り濃く、そして冷たい。本当にこのお方は私の知る国王なのかとすら思わせる。
もしかしたら、私に助けを求めておられるのかもしれない、という思いは、早々に潰された。
 
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| 創作覚書 | 02:41 | comments(0) |
国王の浸食 一
「警備隊長に昇任した報告と、プロポーズを同時にやるとは。そなたらしいな。」

国王陛下の私室。私は年に数度、この場に仕事ではない用事で訪れる。
客は座っておけ、と言われて座った私の目の前に、簡単にはお目にかかれなさそうな赤ワインのボトルが置かれた。
 
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| 創作覚書 | 23:55 | comments(0) |
星の精霊は赤い夢をみるか
「……そうか。そなたが決めたことであれば、これ以上私がどうこう言うことではないな。」

ティーカップを静かに置き、国王陛下は柔らかく笑った。

「は。申し訳ございません。ありがとうございます。」

仕事に支障は出しません、と付け加え、私も紅茶を飲み干したティーカップを置く。
陛下はノートに今日の日付を書き、静かに閉じた。公的ではない些細な相談でも、細かに書き留めておかれるようなところが、この国を隅々まで潤わせていると感じる。

「よいのだ。……そうだな、乳母か手伝いを雇うといい。そなたには大いに世話になっておるからな。金銭面での心配はせずともよい。」
「お気持ちだけ、ありがたくいただきます。……私が決めたことでございますから、雇うのもすべて自分で。」

にっこりと笑ってみせれば、陛下は少し苦い笑みを返して下さった。

「……そうか。そなたは頑固だからな、何も言うまい。何かあればすぐ頼るようにな。」
「ありがとうございます。急な相談でお時間をとらせ、申し訳ございませんでした。」
「良い。気にするな。さあ、今日はもう休め。この三日間ろくに休んでおらんだろう。」
「……さすがに、今回は疲れましたね。初めてのことだらけでした。」

それはそうだろうな、と笑い立ち上がった陛下は、私の肩に軽く手を置き、ああそうだ、と呟く。

「そなたが落ち着いたら、赤子を娘にも会わせてやってくれ。きっと良い勉強になるだろうし、いつか良い友となるかもしれんしな。」
「かしこまりました。ひと段落ついたら、すぐにでもお連れしましょう。」


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| 創作覚書 | 05:04 | comments(0) |
長い髪の記憶
4歳

「その髪も、その目も、お前はぜんぶ私に似てしまったのだよ。」
小さな私を抱き上げ、お父様が寂しそうに笑う。
髪を撫でてくれる大きな手は、あたたかい。
さびしくないよ、と頬にキスをした私を、ぎゅっとお父様は抱きしめてくれた。
あったかくて、安心する。
私、本当のお母様にはとても似ているのに。
そう思っても、言葉にはしない。
お父様は、本当のお母様の話をすると、怖い目をするから。

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| 創作覚書 | 23:40 | comments(0) |
どやし系の魔女とゆかいななかまたち

トリックオアトリート!

トリックオアトリート!

大通り街を歩いていると、威勢のいい小さな魔物たちが近寄ってくるのが、視界の隅で見える。
けれど、正直私にかまう余裕はない。
何故って 見ればわかるでしょ。ものすごーく!急いでいるのよ!
とりあえずお供の二匹(お供というか押しかけてきた居候だわ こいつら)は私の歩調に合わせるのに必死。一匹はほうきで飛んでる訳だけど。
まあ流石に、コレだけ鬼気迫る一行に近寄ってくるのは本当、わけのわかっていない一部の子供だけね。
大抵の子供は、大通りを歩くお菓子袋を持った大人にたかっているわ。そうそう、そういうのにたかって。私にはかまわないでちょーだい!

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| 創作覚書 | 00:01 | comments(0) |
帰還そして
目が覚めたら、医務室の天井が見えた。
そして、心配そうに自分を覗き込んでいる顔があった。

「アナマリア…?」
「ビショップ!!!やっと…目がさめたんですね」

アナマリアが、ぎゅっと私の手を握り、涙を浮かべて微笑んだ。

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| 創作覚書 | 23:05 | comments(0) |
奪取
ルクスの咆哮は、悲鳴に近い響きがあった。
というより、悲鳴そのものだった。

「…駄目だったわ…また失敗ね」

デュカの耳にはっきりと、知らぬ女の声が響いた。

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| 創作覚書 | 00:05 | comments(0) |
白を追う者 四
「った!!!」

魔力の破裂により吹き飛ばされたニナは、何かに激突した。
とはいえ、それは柔らかかった上、受け身をとったのでほとんど痛みはない。

「げっ!!!キモい!!!!」
「えええええ!!ちょお、僕優しィ〜く受け止めたのにそれヒドないですかァァ!!」

小さな彼女を受け止めたのは、先ほどまではいなかったトライアンフだった。
同じように飛ばされたリオンを見れば、同じく先ほどまでいなかった彼女の息子アレックスが辛うじて受け止めたようだ。棒立ちになっていたヨハンは既にケンジに抱えられ、全員無事…と思ったら、リオンは息子を一喝する。
 
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| 創作覚書 | 23:41 | comments(0) |
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