<< 三日目。 三日坊主を実証するかしないか、今全世界がCBに注目する… | main | 五日目です。 >>
こいばな
長いこと一緒にいるからといって、相手の全部なんてわからないものね。
旦那の時も思ったけど、上司でも思える。
誰か一人でないと引き出せない感情や表情だって、あるわけで。



「ビショップ、お茶が入りましたよ。どうぞ」

大きくて厳つい机と椅子、太い万年筆に細かい文字がびっちり書き込まれた書類。
それらに囲まれて難しい顔で机に向かっているのは、およそそこには不釣合いな小柄な少女だ。
もうこの少女を10年近く見続けているけれど、同年代の少女と比べれば随分小さく見える。それでもここ三年で20センチ身長が伸びたというのだから…まだ成長期著しいのかしらね、と思う。

と、それはおいといて。
私は彼女の机に、ティーカップをおいた。
砂糖もミルクもつけない。仕事中の彼女の紅茶は一貫してストレート。
ことり、と音がすると同時に、彼女は私を見上げて ありがとう、と言った。

「もうこんな時間でしたのね。アナマリア、あなた今日は3時までじゃなかったかしら?もう5時ですわよ?」
「お気遣いなく。私用が早く済みましたので、戻ってきただけですよ。」
「それならよいのですが… わざわざお茶まで。お休みはお休みなのですから、もっとゆっくりしなさいな。家では子育てなのですから…疲れているでしょうに。」
「それなら、ビショップもほら、一休みしなきゃ。お昼からそこ、動いてないでしょ?」

紅茶を一口飲んだ彼女は、その言葉に苦笑い。図星みたいね。
失礼しますよ、と一言かけ、彼女の後ろに立って… …軽く肩を揉んでみた。…相変わらずの肩凝り具合。15やそこらでこれだけ凝ってどうするのかしら。
私のこの行動はいつものことなので、彼女は驚くでもなく…ただ、カップを傾けてから苦笑した。

「…もうすぐ終わりますわ、この書類も。このあいだの柱崩れの…修繕の。これが終われば私も今日は休みますわよ。」
「では、心配はいりませんね。…こっちの書類は…警備隊の方に持っていっておきますね?」

机の端には分厚い大きな白い封筒がおかれていて、私はそれを持つ。
持っていっておきますね?と聞いておきながら、返事を聞かずに私は部屋のドアを開ける。

「あ、私が持っていくからあなたは休んでおきなさいって…もう!アナマリア!」

後ろから彼女の声は聞こえてくるけど、これもいつものことよ。私は部屋をあとにして、警備隊の詰所に向かった。











30分ほどしてから部屋に戻った時には、カップは片付けられ、彼女は書類を整理しつつ椅子から立った所だった。

「もうっ、休む時は休みなさいといつも言っているでしょう!…助かりましたけど…」

短い眉をいっぱいに吊り上げて私を見上げる彼女だけど、そのあとには「ありがとう」と付け加えた。
もうこの少女を10年近く見続けているけれど、怒る時は怒っても言うべき事は忘れない。気付けば目線が、上司への目線ではなくなっているけど、やっぱり成長を見続けていると…お母さんか何かになったような気もするものだわ。



……だからこそ、最近気になることがあったりして。



書類を整理する彼女を見た。
この前の健康診断では、身長が140センチ台にもうすぐ入りそうと嬉しそうにしていた所。華奢な体相俟って、年齢よりも随分子供に見える。
…というか、本当に子供だ。まだ15歳で、セイルーン小国の最高神官で私の上司。当然能力は抜きん出ている。昔からそうだったけれど、成長著しいのは姿だけではなく、力も…で。彼女が上司になった時こそ、ギャップにはついていけなかったけれど、勿論今は気にもならないし尊敬すらする位だわ。

「アナマリア?」

片付け終わって、制帽を被り…その様子を見つめる私を彼女が不思議そうに見返してきたわ。
セミロングの薄桃の髪が、制帽からはらりと流れて、羽根の様な耳にかかる。幼い頃から、眉上で切りそろえた前髪は健在だ。全体的にのびても、前髪は眉上でないと気がすまないって。

「アナマリアったら!顔が笑ってますわよ!?」

彼女はまた短い眉を吊り上げて、私を見上げる。
スッキリ端整な顔立ちだけど、まだ年齢と不釣合いな容姿なのか仕事の顔が抜けないからか…常に霞んで見えてしまうのが勿体無いと思う。
でも。

…でも。

「そういえばさっき、書類届けに行った帰りに…」
「?」
「アレックスさんがいらしてましたよ。もうすぐ仕事は終わるって伝えておきましたが…今中庭のベンチにいるかと…」
「ええっ!?じゃあずっと待っ」

「デュ―――カ―――――!!仕事終わったか!?飯食いにいくぞ!!!」

…中庭のあたりからナイスタイミングで元気な声が聞こえてきたわ。
その声を聞いた小さな上司は、慌てて鞄を持って

「アナマリア、戸締りだけ頼めますかしら!?あのまま彼、叫び続けますから!」
「大丈夫ですよビショップ。いってらっしゃいませ、また明日♪」

ぱたぱたと彼女は駆けて行った。来るなら先に連絡してほしいですわ!と文句を言いながら。
もうこの少女を10年近く見続けているけれど、こういう表情は殆ど見なかった。年齢相応の、生き生きとした嬉しそうな表情は。


……だからこそ、最近気になるのよ。


いつも固いあなたが そうやって年相応に戻れる相手といつまで友達のままなんですか?って。

アナマリアさんの恋バナ相談所、いつでも開設できますからね?
 
| 創作覚書 | 03:52 | comments(0) |
コメント
コメントする