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女王の謁見 一
リンクルの代表からの謁見を申し込まれたのは、私が記憶にある限りでは…前王であるお父様の時以来だと思う。
 
私が信頼を置いている家臣であって妹で友達…デュカは、リンクルという、人に似た種族だ。
彼らの人間との見た目の違いは、耳が翼のような形になっているということ。
種族全体で目の色が同じとか、アルビノのような薄い色素を持つとか、色々とあるけれど…パッと見の違いは耳くらいね。
まあ兎に角、私自身は そのリンクルから謁見を申し込まれたのは初めて。
デュカなら謁見をするより先に喋っちゃうし、もともとこの国はそんなにガチガチに固くないお気楽な小さい国(というか実際の大きさだって、大国の城下町くらい。大きな町がひとつの国ってとこね。)
だから、そもそも外国に比べれば謁見の数なんて微々たる物だとおもう。

…ってまた話が逸れちゃったわね。
今日はその謁見の日で、昼食をとった後…約束の時間より早めに、私は謁見室の椅子に座った。
警備隊から四人、部屋の中と外についてくれる。

鏡を覗いて、髪が乱れていないか 服に乱れは無いかチェックして。
謁見ノート(勿論自作のヒゲノートよ!)と、愛用の万年筆を脇に準備して。
ノート記入は、長引く時や 込み入った話なんかの時に、暇があればデュカに頼んでいる(あの子は字が綺麗だからね)。でも、流石に今回は…おそらくだけど本人についての話だし、頼めるわけもないわ。

そう、デュカは私のそばで昔から…本当にもう十数年、働いてくれてるけど、その間一度として 里帰りはおろか誰かが様子を見に来ることもなかった。親でも様子を見に来てあげれば、と最初は思っていたけど、ここまでこないのはきっと種族の方針なんだろう。そういう価値観というものは、人間同士でも違うんだもの。私がどうこう言う事でもないものね。
でもそれなのに、今?
…多分デュカの事だろうけど、今来るからには何かあったに違いないわ…。
そう色々考えているうちに、扉の向こうの気配が濃くなった。

「ノイズ陛下…」
「ありがとう。お通しして。」

部屋の外にいる警備隊のオルフェの声に答え、しばらくして一人の人物が入ってきたわ。

「お初にお目にかかります、本日はお時間を割いて頂き…」

と、深々とお辞儀をして挨拶をするその人に…まず椅子を勧め、お茶を勧めた。
ありがとうございます、と少し控えめな声でお礼を言われ、私は笑って ご遠慮なく、と返した。

「それで、本日はどのようなご用件かしら。」
「…突然で申し訳ありません。実は…」

ポツリポツリと話し始めた、その一言一言を逃すまい とメモを取りながらも、私はこの人をこっそりと観察したわ。
デュカのようにほっそりとした体に、きちっとしたロングコートは椅子にかけていて、タートルネックにパンツスタイル。
浅紫色の長髪を高く結い、中性的で端正な顔立ちをしている…けど、声は女性ね。年齢は…私より少し下。デュカより少し上かしら?
もちろん、耳は見慣れた翼の形。意志が強そうなつり気味の瞳は、やはり見知ったブルーグリーン。
デュカと同じように全体的に色素が薄くて…顔立ちもどこか面影があって…改めて見ると、美しい種族ね。

「…陛下?」
「失礼。 話はわかりました。デュカに長期休暇を与えます。」
「…ありがとうございます。」

彼女の話はこうだ。

リンクルの長が老衰で臨終の床についており、代々続くしきたり通り、次の長を決める集会を開かねばならないということ。

デュカは年齢規定により長の候補ではないが、一族の中では抜きん出た地位に居て尚且つ若いので、これからのために集会を見ておいて欲しいということ。

集会は今の長が亡くなった後、一ヶ月半の儀式と祭りをしなければならないこと。

今の長は、長く持ってももう一月も生きることは無いということ。

デュカの仕事を長く止めるわけにもいかないので、旅の期間と準備を含んで三ヶ月の休暇を与えて欲しいということ。

…たしかに、今でなくてはいけない話ね。
でも。

「でも、どうして今まで一度もコンタクトを取ってこなかったのです?デュカがこの国に来たのは生まれてすぐと聞いているわ。」
「…お気になさるのはご尤もでございます。決して、種族柄というわけではないのです。通常はデュカ様のように、子供を世に出せば、親は様子を見に行きますし、里帰りもさせます…でも…今までデュカ様に関して我々が触れなかった事には、理由がございます…」
「それは、聞いても良いことなのかしら。」
「…畏れながら、すべては申し上げられないのです。しかし、デュカ様は…我々リンクルの中でも特別な方なのです。ですから、その方に我々が簡単に関わってはいけなかった…」
「そう…わかったわ。誰にしても、仕方の無い事ですね。特別だからこそこの集会にも参加するべきなんでしょう。デュカの仕事は他でまわすように計らいます。…あと」
「はっ…」
「その集会への道は誰かが案内してくれるのかしら。場所は?安全は? そう…それに、あなたは誰?」

そうだわ。どうしてすっかり抜け落ちていたんだろう。いつも、メモの最初には相手の名前を書くのに。
そして私の言葉に、彼女はハッとして慌てて答えた。

「もっ…申し訳ありません!なんというご無礼を…  私は、ルクスと申します… 案内は、私が致します。私も、一人でここまで安全に来れましたから…危険はないと思われます。」
「あら、一人旅だったの? それはご苦労様…でしたね。復路も大変でしょうけど…」

丁寧な口調が途切れかけてる自分をこっそり諌めつつ、私はルクスと名乗った彼女をあらためてまじまじと見た。
行き先はこの国内ではないことはたしかだし、そんなに近い場所へいくわけでもなさそう。こんな華奢な女性一人でよくここまで…
…そうだわ。

「あの、そして場所なのですが…」
「そう、それ。この国内ではないんでしょう? 近場ではないし、そこそこ遠い。」
「…はい。それに、少し言いづらい場所でして…なんと言えば良いのか…」

困ったような表情の彼女に、この言葉は微妙かしら…と思いつつも 私はにっこりと笑いかけたわ。

「それなんだけど、ウチの警備隊から一人 屈強なのを護衛につけるわ。…その集会の間居るのが困るなら、途中や直前でこっちへ返してもいい。 こんな言い方はあなたに失礼だけれど、やっぱり心配ではあるの。 それに、若い女性二人旅は危ないわ  …もし良ければだけれど、どうかしら?」

 
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