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憧れと君
「僕と付き合うて下さい!」

特徴的なイントネーションで、その青年は私の手をしっかと掴んでこう言い放った。
彼の喋り方には聞き覚えがある。
私の妹(血は繋がってないけど)の…知り合いで、異様にキツい目つきをした人間の女。あんまりお近づきになりたくないと、私ですら思った…その子が、たしかこういうイントネーションだった。
もっとも、彼女の言葉は勢いとキツさを感じさせ、この青年はまろやかで優しい感じはするのだが。

「あなたが好きなんです!」

キラッキラした目が、期待と不安の色をちらつかせながら私を見つめる。
あちゃー…そう思ったと同時に、可愛いねえとも思った。




彼…トライアンフ君は、同じギルドに所属する同業者。
私は年に数度 まとまった期間ギルドに身をおくけど、彼は年中通してギルドにいる。
ギルドに入ってきたての彼は、14歳という若さだった。決して珍しくはないけれど、その歳で十分に仕事をこなしているのは珍しい。
だから顔と名前は知っていた。
そこから数度、同じ仕事を共にこなしたことがある。
そこそこ仲良くなっていたと思うわ。仲間として。
でも、ただのギルドの仲間という関係が 変わったのは去年…彼が17歳の時だ。
どの依頼を受けようか選んでいるときに、彼がいつになく意気消沈して仕事から帰ってきたのがはじまりで、そこから数ヶ月…彼の相談にのったり、食事に行くことが増えてきて…
時々冒険を共にする仲間から、私達は友人になった。
そして今、また関係が変わろうとしている。






「僕では、あきませんか…?」

手を握りじっと私を見つめたまま、彼は言葉を待っている。目がものすごく純だわ。
はあ、とため息をついて とりあえず宥めてみた。

「憧れなんじゃない?」
「そこは否定できません! けど僕、ガイアさんといてすごい幸せなんです!」

満面の笑みで言い切る彼。ああ、なんて幸せそうなんだろ。

「結構叱った気がするけどねえ。」
「だからこそというか…それがよかったんですというか…僕、ガイアさんに叱られて、ちゃんと僕の注意してくれて、それ嬉しかったんです。」
「それじゃ、つきあうっていうよりお母さんとかお姉さんの方がいいんじゃないの?」
「いや… そんなら、ここまでときめかへんと思うんです。気がついたら、ガイアさんのこと考える時間がすごい多くなって…」

こう考えているのは私だけだったようだけれど、私達の間にはそんなロマンチックな雰囲気は流れていなかった。
ときめくことがあるとすれば、きっと…仲良くなってから彼にしだした、私の挨拶だわ。

「キスの事なら 私はそういう意味じゃないわよ。挨拶だし。 それが原因じゃないの?」

私の住む地方では、男女関係なくキスを挨拶としている。
唇でできるコミュニケーションは、喋るだけじゃない。ふれあって、力のある者なら相手の内面すらわかるのだから。
内面をお互い隠さない。それだけ、親愛の印。
だからココ最近、彼にはその挨拶をしていたのだけれど…妹にも言われてたけど、やっぱ普通じゃないのね、コレ。

「そこも否定できません!挨拶なんもわかってます。でも…」
「でも?」
「やっぱりあの その ちゅーで確かにときめいてもうたかもしれません…」

ほんのり頬を赤らめて照れるトライアンフ君。
なんというか、若いわねぇ。

「それに、ほんまガイアさんに相談のって頂いて、すごい救われたんですよ?」
「だから、憧れなのよ。 相談にはのったわ。君が前の彼女と別れてその話を聞き始めてね。 私はその隙間にちょっと当てはまってただけよ。」
「僕…そのへんも考えました。その上でやっぱり、好きや思たんです!」
「私は君の何倍も生きてるわよ。ダークエルフなのもわかってるわよね?」
「はい!僕は18歳、ガイアさんは171歳!さらに僕は人間です!でも!
愛に歳の差も種族もないと思てます!!」


きっぱりと言い放つ彼は、若かった。青い。夢を見すぎてる。
これは彼の憧れでしかないわ。


…でもまあ、間違っちゃいない。




「じゃあいいわよ。付き合っちゃおうか。」
「えええッ!?」
「あら何 嫌なの?どっち?」
「嫌とちゃいます! え、ええんですか?」
「いいよ。 私あんまりデートとかしない方だけどいいの?」

ええんです!ととても嬉しそうに言う彼は確かに可愛くて、じゃあこれからよろしくね?と…私は、いつものキスをした。











憧れだということを少しづつ自覚してきた若い彼に、

「友達の関係に戻りましょ」

と伝えるのは、それから五ヵ月後の事になる。







| 創作覚書 | 23:49 | comments(0) |
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