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白を追う者 一
抜けるような青空は、ピクニック日和といったところか。
心地よい風が時折吹いて、美しい景色が眼下に広がる。

最も、空を翔る彼らはピクニックのように浮かれた気持ちではない。





「徒歩で三日ならこのあたりだわ! みんな、念入りに見張ンのよ!」

ヒポグリフ…馬と鷲が合わさったような魔獣だが、その集団の先頭から元気な声が飛ぶ。と同時に、空を翔るヒポグリフ達の速度が、少し落ちた。

「ほんっと一本道ねえこの街道。こんな解りやすい道、通ってんのかしら。」

薄い青の髪をなびかせ、勇ましくヒポグリフに乗っているのは、食堂の女王リオン。
非常勤の導士…魔法使いでもあり、今回の臨時小隊に入っている。一番リーダーらしく見えるが、リーダーではない。

「でも他の道通るのは結構酷なのよねーこのあたり。 八割方、この道通ってると思うわ。アンディーブいくための道だしね。  どう?」
「はい、色が少し見えてきました!ビショップとオルフェ警備副隊長の色…もう一色も見えます!」

リオンの声に答えたのは、先ほどの元気な声の主、かなり小柄な神官ニナ。
ヒポグリフにしがみついているというか、乗って遊んでいるようにも見える。この小隊のリーダーだが、一番そうは見えない。

さらにそのニナに答えたのは神官見習いの少年で、彼女のすぐ後ろにつき、ずっと眼下の道を凝視している。

「あーなるほど。色で追ってたわけね。」

リオンは納得し、再び下の景色に視線を戻す。




ニナはアナマリアから、リオンは警備隊の副導士長から、それぞれ臨時の呼び出しを受けた。四時間ほど前の事だ。
ほどなくして門の近くの銅像前に集まったのは、神官二名、警備隊から導士二名、騎士二名の計六名。そしてノイズ女王とアナマリアだ。
三日前に旅立ったビショップと警備隊副隊長、客人の女性計三名をヒポグリフで追う…それが、集まった六名に与えられた役目だった。

「とりあえず説明したら長いから、三人を見つけ次第一旦戻らせて!何かあったら知らせてね!よろしく!」

…以上が、女王からの直々の言葉だった。








そんな訳で六名は、ヒポグリフを駆って行方を追っている。
リーダーのニナは、アナマリアから多少の説明を受けていたので、あとの五名に説明しながら進んだ。

「なんか、デュカ様ダマされて連れ出されてるかもしんないのよね。オルフェ兄さんがいるから大丈夫とは思うけど、一旦城に戻ってもらうって。」

…こちらもあまり筋道を立てた説明とは言えないが、もしかしたらヤバいかも、というニュアンスを伝えるには十分。
皆、注意深く街道を見ながらヒポグリフを急がせた。


元警備隊の神官ニナに、非常勤ながら実力者の導士リオン。
他には、警備隊から騎士第三班長ケンジ・ロルフ、同副班長レド。
導士第一班のベテラン導士アスタロート。
急な召集とはいえ、神官見習いのヨハン一人を除いて精鋭と言っても良いだろう。
…いや、見習いとはいえその一人も精鋭だ。色視能力者である。
なんとなく色が見える程度ではあるが、行方を追うには十分だ。



その彼が声をあげたのは、冒頭の会話から五分もたたない頃だ。

「ニナさん! 前方4キロくらいに、何か白っぽい…霧みたいなのが見えます!魔法を使ったあとみたいな…」
「でかしたヨっちん!急ぐわよ皆!」
「ヨハンです!」
「ああもうヨっちん、つまるから早く行く!」
「す、すいませんリオンさん! うわっと…あああごめんなさいレド副班長!!」
「いや…いいから、とりあえず前を見ろ。危ないぞ。」

…こんな調子ではあるが、ヒポグリフの一団はスピードを若干落としながら滑空していく。
















ヒポグリフから降りたニナは、とりあえず奇妙な光景を見渡すことしかできなかった。
それは、リオンとて同じだ。
神官見習いヨハンはヒポグリフに水をやりながら、何かわかるかもと色を見ようと務める。残る五人は辺りをチェックしはじめた。


「…何かしらねえ。とりあえず何があったのかいまいちわかんないわよ、コレ。」

まず口を開いたのはリオンだ。 一番近くに落ちてあった、安っぽいローブを手にとる。ニナはそれを覗き込んだ。

「何かこれだけこんなもんが落ちてたらキモいわねぇ。」
「リッちゃん、これ 脱ぎ捨てたって感じじゃないよねえ何か。」

二人が訝しげにそれを観察する間、ベテラン導士アスタロートは荒れた地面を見た。騎士の二人は、気を張り誰かいないか探している。


あたりは、一見荒れていた。
地面はえぐられ所々に血痕が残り、街道脇の木が一本、幹の半分あたりからなくなっている。
そして、あたりにローブが転々と落ちている。20着はあるだろう。

だが、あくまでも一見、だ。
注意深く見れば、どれもひどく整然としているのがわかる。
地面のえぐられ方は綺麗で、土もばらけていない。
木の方も、すっぱりと「無い」のだ。あったはずの上半分はどこにもなく、葉が落ちた形跡もない。
そしてローブはというと…

「…なんか、中の人溶けましたって感じねぇ。脱いだって感じじゃないし、ぐしゃぐしゃでもないし。」
「うん。なんか…ねえ。 みんな、何かわかった? ヨっちん、何か見える?」

ヨハンは、眉を顰めたまま答える。

「…白い霧のようなものが一帯に…薄れてきたとは思いますが… あと、そのローブ。全部、白い色が残留してます。」
「同じ属性色の奴が着てたってトコか…いや、ゴーレムのようなものが中に入っていたのかもしれねぇな。うっすら魔力が纏わりついてるみてぇだ。」

まだ訝しげにあたりを見回す彼に、戻ってきた導士アスタロートが続いた。
リオンも、もう一度辺りを見回す。

「白ねえ。この血も気になるし、ここらでドンパチやったのは間違いなさそーねぇ。肝心のその主がだーれもいないけど。」
「みたいだよねえ… ねーヨっちん デュカ様達の色はあるのよね?」
「あっ、はい。ただ…ここで途切れて…」

「オルフェ副隊長!!」

ヨハンの言葉は、騎士のレドによって遮られる。

「えっ オルフェ兄さんいたの!?」
「あら 全然気付かなかったわよ。って、なんかヤバそーかしら?」

ニナが声の方へ走る。街道脇の背の高い草むらだ。
リオン、アスタロートのあとにヨハンも続いた。
草むらから、大柄なケンジ・ロルフ班長が、オルフェを抱えて出てきた。
レド副班長がそれに続く。手には、長い真っ直ぐな棒を持っている。

「少々外傷はあるが、血は止まっているし命に別状は無いと思う。ただ…意識も無い。で、これが傍にあった。」

淡々と説明するレドだが、表情は暗かった。
それは、オルフェを抱えているケンジも同じだ。
命に別状がないのは勿論喜ばしいが、まさかあの副隊長が…という気持ちが強い。

「これって、デュカがいつも持ってる棒よねぇ。」
「…うん。 ひとまずは間に合わなかったってコトかな…」

ニナが表情を歪ませた。
リオンは、ケンジに担がれているオルフェの頬をぺちぺちと叩く。当然、反応は無い。

「なんか 魔法でも受けたっぽいわね。」
「魔法ってこたぁ、ヨっちん。オルフェ副隊長も白くなってるか?」
「…はい。いつもの色が僅かにあるくらいで、ほとんど白いです…」

導士二人が目を細めて見定めるのを見、ニナは肩を竦めた。

「魔法なら、リッちゃんと太郎にまかせてもいい?」
「おっけー。あたしらが起こした方がいいわね。」
「そーだな。ケンちゃん、こっちに副隊長を寝かせてくれ。なんとかしてみる。」
「…ああ。」

ケンジがオルフェを地面に横たえ…



……その時唐突に、強く魔力が動いた。
咄嗟に、全員その方向に構える。



 
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