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白い娘と盲目の僧 一

盲目でありながら僧の道を選び、
僧でありながら憑き物を背負っている。

そういう理由で、私は寺を出た。

別れを惜しむ優しい師弟達は、きつね憑きだと忠告してくれた。
それらしい実体が見えていたのかもしれぬし、霊的なものだったのかもしれぬ。
いずれにせよ、私には見えぬものだ。


…見えぬはずだった。

 
寺を出た私は、まず滝を求めた。
打たれるというわけではなく、純粋に滝が好きだからだ。

見えずとも、滝の圧倒的な音と空気…存在感の前に、私は生きていることを感謝する。
力強い水の音は、打たれずとも心を洗い流してくれるのだから。


寺から少しはなれた、鬱蒼とした山道を歩く。
先ほどから川の音が優しく響き渡っている。おそらく滝へと通じる道。
産まれついてより光を知らない私には、山道を歩くのは造作ないことだ。
どこかで獣の声が遠く聞こえ、すぐ傍を小鳥のさえずりが通り過ぎる。

道が少し狭くなった。
右に寄ると坂があるから転落してしまう…そう感じ、左の岩壁に沿って歩いた。


少しづつ、水音が荒く…否、繊細な音が束になり大きくなってくる。
音が大きくなるにつれ、私はわくわくした。
自分はこうも滝が好きなのか、と、我ながら毎度のこと呆れてしまう。

頬を掠める風が、湿気を帯びてきた。
空気中の水の粒子が粗くなってくる。霧雨のようだ。

足音が水音に溶けてしまう頃には、私は滝を前に佇んでいた。
結構な山奥に寺は佇んでいたが、それよりもっと奥に来たようだ。
人の気配はない。私一人だ。

しばらくはこのあたりで今後を思案してゆこう…
…そう思い、一歩足を踏み出したその時だった。


馨しい香りと、細い腕が私にからみついたのは。

「それ以上進んじゃだめ…落ちちゃうわ。」

可愛らしい少女の声が、甘く囁いた。


私が初めて、彼女を認識した瞬間であった。









| 創作覚書 | 00:39 | comments(0) |
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