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連れてった
「黒いライオン像」のたてがみに、キラキラと水飛沫が散る。
その日は休日、僕は昼1時半の待ち合わせに15分前に到着してた。

 
 
町の中心にある大きな噴水広場。
やっぱり休日は人通りが多い。
たしかこのへんの教会で、今日バザーやっとったなあ…
職場に貼っている「今月の行事予定表」をぼんやり思い出しながら、僕はライオン像を見つめてた。

ふいに、ライオン像と目が合った。

「トラのにィちゃん!なんだ今日はデートか!?」

…ライオン像、いや、ライオン像のバイトをしている黒いライオンは、底抜けに明るい声で僕に笑顔をみせた。
ゆうても、一見すれば咆えているように見えるかもしれんけど、彼を知るとどう考えても笑顔にしか見えんようになるのが不思議や。

「いや、今日はちょっと知り合いの女の子の買い物のエスコートですわ。ああほら、リオンさんの娘さんです。食堂によぉ居はる。」

僕は黒いライオン…ルビーアイさんに、笑顔を返す。
ルビーアイさんはホホーと唸った。

「つまりデートってことだァな!!ガハハハ!!」
「んもー、ちゃいますて!あの子より僕12コも上なんですよ?あの子に悪いですやん、僕オッサンですよホンマ」
「別に悪くはないよ。」

…ひょこっと、横に可愛らしい顔がのぞいた。

「なんや、早かったなお姫さん。」
「もー5分前だよ? あ、お疲れ様、ルビっち!」
「おうリディ、お疲れさん!今日も可愛いな!!」
「ふふっ、ありがとー♪ 仕事がんばってね!」
「おうよ!リディも楽しんでこいよ!」

再び、喋る気さくなライオンから「黒いライオン像」に徹し始めた彼に、お姫さんは手ぇ振る。 ほなまた、って僕も手ぇ振って、歩き出した。
…と思ったら、左腕にお姫さんがしがみついてきた。

「なんや?」
「だめ?」
「いや別にあかんこたないけど」
「じゃあいいじゃない。ほらいこ!」

元気やなあ、おもて、僕はお姫さんに歩幅合わせて再び歩き出した。





「…デートだよなあ。いやあ青春青春!いっちょ俺もコレ終わったらリオンに甘えにいくか!」

噴水の飛沫と去っていく二人に目を細めながら、黒いライオン像がひとりごちた。





*****





「ミニスカートが欲しいんだよね。」

そう言うお姫さんを連れて、僕は町外れに近いセレクトショップに向かった。若い子向けのお手ごろ価格な服が揃ってる店や。

なんでそんなん知ってるかて?
実はニナさん(僕の上司やで)の誕生日プレゼントどうしようおもてた時、偶然通りかかってみつけたんや。
そん時は、「ニナさんいっつもボーイッシュやからたまにはスカートはいたらええのになあ」っていうのと、「スカート買うても絶対はけへんやろうなあ」っていう迷いの末、ミディアム丈のデニムのスカートと、ショート丈のサロペットの2着買うてプレゼントした。案の定、サロペットはよう着てくれてるけど未だにスカート姿を見たことが無い。

…そんな訳で、男がいかんような店も詳しかったりするんや。

お姫さんは、ずっと僕の左腕に抱きついたままや。
上機嫌で、頬が薔薇色に紅潮しとる。

「なんや、新しい妹でもできたみたいやわ。」

言うともなく言うた僕のセリフに、お姫さんは反応する。

「ふぅん… デートっぽく腕組んだんだけどなあ。」
「たぶんそうは見えへんと思うで?ホラ、ついたついた ここや。」

ぷーっと頬を膨らませるお姫さんやったけど、店見ると大きな目がキラキラ輝いた。
よしよし、好みドンピシャやったみたいやな。

「すごい!こんなトコあったんだね!」

ガラス張りで店内が広く見えるこの店には、可愛らしい服やカジュアルな服、ちょっとしたアクセサリーなんかが所狭しとひしめきあってる。いや、まあ狭くはないけどな。

気付けば、店の中のカットソーコーナーから、お姫さんが手招きしとった。
…荷物持ちフラグも立ちそうやなあ。ええけどな。
僕が傍まで来ると、お姫さんは紅潮した頬で、レースのあしらわれたパフスリーブのカットソーを見せてくれる。

「ね、コレどう?似合う?」
「スカート欲しいんちゃうんかいな」
「だってカワイイんだもん!女の子は服いっぱい欲しいんだよ!」
「まあええけどな、予想はしとったし。」
「わかってんじゃない! で、コレどう?」
「似合うてるよ。せやけど…」

僕は、そのカットソーのおいてある段…の下段の、同じレースを使った違うデザインのカットソーを手に取った。
キョトンとしているお姫さんの手ぇとって、近くの鏡の前に立たせる。

「ソレより、こっちの方がお姫さんには似合うてるで。」

僕は、その服をお姫さんにあててやる。
さっきのカットソーより、ちょっと裾が長めで、ノースリーブ。
鏡の映ったお姫さんは驚いたような表情をしとる。
…かと思たら、ぱあっと笑顔になった。

「スゴい!トラ助実はセンスいいの? 確かに僕こっちのが好き!」

…喜んでもろたのは純粋に満更でもあれへんかった。

結局その後、ミニスカートとビーズのブレスレットは僕が選び(ミニスカートの丈で一悶着あったけど、そこはお姫さんが折れてくれたわ)、そろそろ水着もあるのかとお姫さんが出始めの水着を見ている隙に…僕はお会計を済ませる。
気付いたお姫さんはお金払う言うてたけど、まあ僕は最初からそのつもりやしっちゅーことでスルーした。





「ありがとね!」

店を出て、お姫さんがまた僕の腕に抱きつく。

「ええで!お姫さん気にいったみたいやし、また連れてきたるよ。」
「え?」

僕の言葉に何故か驚くお姫さん。

「なんや?」
「…ううん、えへへ!ありがと!」

なんや嬉しそうに、お姫さんは僕の腕をぎゅうっと抱きしめる。
ほんま妹できたみたいやなあ…て思いながら、片手に荷物、片手にお姫さんで、僕は次の目的地のパフェ屋に向かった。




約束した日に「じっくり食べたいんだよ」と言うてた言葉どおり、今日パフェ屋でお姫さんが食べたのは、ゆずみつ白玉パフェの一杯だけやった。

 
| 創作覚書 | 03:21 | comments(0) |
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