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蒲公英の恋 五
「…ご苦労様」
 
迷っていた最後の星が、輝きながら空に熔けるのを見届け…デュカはようやく沈黙を破った。
星を見守っている間、神官は言葉を封じて特別な唄のみを口にする。唄とはいっても、とても静かでそれは沈黙に近い。その沈黙を最高神官が破る。
それが、星祭の終わり。
彼女に付いて星を見届けてきた神官数名は、その声を合図に労い合った。

「さ、一晩中疲れたでしょう。皆、今日は真っ直ぐ帰るようになさい。ゆっくり休んで、次の出勤からはまたよろしくお願いしますわね。」

早速てきぱきと指示するデュカに、神官達はありがたく従った。
夜通し歩き回り皆疲れてはいたが、例外なく満ち足りた表情をしている。
最高神官以外は毎年選出され、星を見守る中心になるということは、彼らにとって名誉で幸せな事である。星祭に感銘を受けて神官になった、という者も多い。
それぞれ彼女に挨拶し、皆ちらほらと帰って行く。
ある者は一人で余韻をかみしめゆっくりと、ある者は同僚と労わりあいながら。



「…お父様には 会えましたか?」

最後の一人が去ったのを見送り…彼女は口を開いた。

「…やっぱり、色…見えるんですね。」
「ええ。沢山の蒲公英が咲いているみたいですわ。」

ふわりと振り向いたデュカの前に、エミリオが静かに立って居た。
傍にある低木の茂みには、彼女にしか見えない蒲公英色が絡み付いているけれど、本人もまだ居たのだ。
もう、世界は夜を乗り越えそうだというのに。

「…父に、会いました。」
「……。」

少しの間をおいて、エミリオがつぶやく。
俯いていて表情はわかりにくいが、声は少し掠れていた。

「私には、姿は見えなかったし、声も聞こえませんでした…」

デュカは彼を見つめたまま黙って近づく。

「でも、あれは父でした。まっすぐに…星が降りてきました。とても暖かかった…私は…」

そこからまだ何か言おうとするエミリオの頬に、彼女は左手を添えた。
左手が濡れた。

「お母様は、お父様と仲良く昇っていかれましたか?」

ずっと、彼の蒲公英色に一色違う色が少し混じっているのは知っていた。
アミュレットとかそういうアイテムを持っていればよくある事で、少しの違和感を感じたものの特に疑問は持っていなかった。
しかし、今はもう混ざった色はない。最近母親が亡くなったらしいと人づてに聞いたのを思い出し、デュカは納得した。あれはエミリオの母親の魂だったのだ。

「はい…寄り添っていきました…」
「お母様もお父様も、嬉しかったと思いますわ。他の誰でもない息子のあなたが、もう一度夫婦を引き合わせてくれたんです。 …今までよく我慢しましたわね。」

エミリオの瞳からただ涙が一筋づつ流れていた。
静かに座り込んだ彼を撫でてやりながら、今だ会った事の無い自分の父と母を少し想った。








星祭の翌日はしっかりと休み、その次の日。
デュカはエミリオに挨拶と…返事をするため、城下町の宿を訪ねた。
帰り支度ができた彼を、セイルーンで最後の昼食をお気に入りのカフェで、と誘う。
彼は快く乗ってくれ、昼前にはカフェでランチをとって、暫し紅茶を片手にくつろぐ。

「仕事、お疲れ様でした。スムーズに進めて下さって、感謝しておりますわ。…道中気をつけて帰って下さいね。」
「ええ、本当にありがとうございましたデュカさん。 その…色々と。本当に、助かりました。あんなに人前で泣いたのは久しぶりです。」

どこか晴れやかなエミリオを見て、嬉しいと感じると同時にデュカの心は少し痛む。彼の気持ちを受け入れる気はない。それを今伝えるのも申し訳なくて。
…だが、意外にも先に切り出したのはエミリオだった。

「デュカさん。この間の告白…とりあえず流しておいて下さい。」
「え…?」
「…星祭の前日、やっぱりあなたに会いたくて、お城へお邪魔しました。」
「…」
「食堂で昼休みのあなたを見ました…でも、声はかけられなかった…」
「…」
「今まで彼を何度か見ていたのに、気付かなかったんです。そして、とても敵わないと思った。」

彼が何を言おうとしているのか、デュカは理解した。同時に、頬がなんだかぽかぽかとしてきた気がして、慌てて冷たい水を一口飲んだ。
星祭の前日、食堂でバッタリ「彼」に会い、一緒に昼食をとった。忙しくて少しイライラしてしまっていて、一瞬喧嘩になりかけたけどすぐに持ち直し、結局昼食後は笑えるようになっていたのを思い出す。
それを、エミリオは見たのだろう。

「その…好きな人、ですよね?」

若干目が泳ぎ口篭る彼女の頬は、ほんのり染まっている。返事を聞かずとも明瞭だった。初めて見る年相応の少女のような反応を素直に可愛らしいと思い、また惹かれてしまう…その気持ちをエミリオは抑えた。

「デュカさんがあんなにくるくると表情を変えるのを…初めて見ました。それで…もっとちゃんと、あなたを知りたいと思った。」
「…ごめんなさい。私は…」

きちんと話してしまおうと思い、デュカは彼を見上げる。しかし彼は穏やかに笑んだ。

「…デュカさん、私はやっぱりあなたが好きです。でも、今の私ではとても彼には敵わない。でもそれ以上に、あなたがこの間色々話してくれて、両親に気付かせてくれて…」

以前のデュカであれば、一歩引いてしまう彼の言葉。しかし、以前のように嫌悪感めいたものは感じない。感謝しています、という意味合いを差し引いても。

「大袈裟に聞こえるかもしれませんが、救われたんです。 俺…私は、あなたと友人になりたい。って言うのも何だか変なんですが…何ていえば良いのか…」

彼の言わんとすることは、デュカも思っていることなのでわかる。
むしろ、私がお礼を言いたいくらい…と彼女は思う。
答えることはできないのは申し訳ないけれど、彼の真っ直ぐさは眩しい。彼のように素直に「好きだ」と言う事は絶対にないと考えていた。彼女自身、その気持ちを封じていたからだ。でもそれは見て見ぬ振りで逃げているだけで、今はそれではダメだと思える。それは、自分で驚く変化だ。…最も、そうすぐに切り替えられそうにはないけれども。

「エミリオさん」
「…?」
「…ふふ。「俺」でいいじゃないですか。仕事じゃありませんもの。それに…その、調子のいい事を言いますけど…私、あなたと関われてよかったと思っていますわ。」

青碧の瞳が真っ直ぐにエミリオを見た。
その目線に、彼も向き合う。彼は笑った。

「…俺も、デュカさんと関われてよかった。また、セイルーンに来た時は食事にでも付き合ってやって下さい。それに…星祭は、また来年来ます。今度は観光目的でね。」
「ええ、是非。…いつでも、いらして下さいましね? 」

デュカもつられて笑った。







エミリオを見送ってから、デュカは自室に戻った。
星祭後の二日の休みもおわり、明日からはまたいつもに戻る。
ふう、とため息をつき、ベッドに倒れこんだ。

見送った時、彼は笑顔で手を差し出してくれ、固く握手をかわした。
きっと自分は酷な事をしているのに、と思いつつも彼の懐の深さには感服してしまう。

去り際に、悪戯っぽく笑って
「好きな方に素直になれるということは、素晴らしいことですよ。さっきのデュカさんみたいにね。」
と言われてしまったことを思い出す。

「…なれるのかしら。」

誰も居ない自室で、ぽそりとつぶやいた。

エミリオは立派だし、好かれるのは嫌ではないとも思える。
それでもデュカの心には、蒲公英色ではなくロイヤルブルーしかなかった。
今まで何度も涙をのみ、諦めようと恋心を押し殺した、そんな相手の存在。
一番の親友でいるというだけでいいはずだった。
でも、抑え込むほどにロイヤルブルーが輝き、どうしようもなく愛おしい。

だからと言って、恋心を抑え込むことを止める気はまだない。
ましてや気持ちを伝えようとも思えなかった。自分はエミリオのように素直になれそうもない。もっと時間がたてば、余裕ができるのかもしれないが、やはり今は…無理なものは無理だった。
ただ、輝きが褪せないのなら、抑え込むだけでいるのはやめようと…
心の中で輝く美しいロイヤルブルーをもっと大切にしようと、デュカは想った。








**********







「おいデュカ!なんかドレス着たってマジかよ!?」
「ちょっとアレクさん!ソレ何処から聞いたんですの!?」
「アナマリアさんと陛下のねーちゃんとニナとトラ助だよ! 何でそういう大事な事を俺に言わねーんだよー!」
「ほぼ全員じゃないですか!ていうかわざわざそんな恥あなたに晒したくありませんわよ!」
「えーなんだよ恥じゃねえよー。髪型変えて化粧もしたんだって聞いたぜ。可愛かったって皆言ってたぞマジで!今度俺もしてえ!」
「かわっ…   そ、そんなにしたいんならあなたが自分ですればいいんですわ!」
「アホかちっげーよお前だよ!俺がしたら目もあてられん位美しくなるに決まってんだろ!」




「あーもーあのアホは。顔は兎も角としても、今のあの髪型と体型でやったらもれなくキモいわよ。はいお待ち、陛下の人はC定食ね。マリっぺはH定食。二人とも味噌汁はあっちね。」
「ありがと! アレッ君の女装ねえ…そこにヒゲとかつければまだカワイイんじゃないかしら?マスコットみたいな感じで。」
「ありがとう、リオンさん。 あの陛下… アレックスさん、また泣いてしまいますよ…」




「なんか知らないうちにまとまってたみたいねー。つか エミリーもニブいわねぇ アレ吉来たら結構ビショップ叫んでるわよー」
「ですやんねェー。エミリオさんも何回か遊びに来たら、そのうちあの輪の中入ってますって。」
「よねー。つうかあんた今回役に立ったのか立ってないのか わかんないわねコレ。」
「立ちましたって!僕は優しィ〜に背中押して、あとは若者の行動を影からコッソリ優しィ〜に見守っとったんですゥー!」
「キモいのよいちいち! …まあエミリー、ビショップの神秘的なトコ惹かれたーってんなら いっぺん鬼の形相であんた叱ってるトコ見せたいわね。びっくりするわよ。」
「いや僕は僕で叱られるのは全然オッケーっていうかビショップなら叱られたいです。でもできれば、ビショップが人妻になってくれたらもっと大歓迎なんですけど。 あー!つうか今回エミリオさんとうまいこといってたら結構美味しい展開やったんですねェ…!!」
「あんたいっぺん死になさいよ」
「嫌ですよ!ちゅーかずっと気になってたんですけどニナさん!」
「何よ」
「なんで僕 あっちの人妻グループにいかしてくれへんのですかァ!!」
「台無しにするからよ色んなものを!!文句あんなら髪引っこ抜いてヒゲの材料として陛下に献上するわよ!!」
「心の底からすんませんでした!!」


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