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続・太陽の男/闇の少女
「埃っぽいし、みなさんみたいに布被ったらええ…ってのはわかってるんですけどねえ」

この地方ではスタンダードな、甘く煮詰めたチャイを啜りつつ、イグニス、と名乗った太陽の男は苦笑いを浮かべた。

「それに、こんな職業をしていたら目立つのでは?」
「まあそれもそうなんですけど、どーも頭くるむんは慣れへんっちゅーか…まあ言うても外国人やし、逆にええかな?って思ったのもあるんですよ。それに僕、そんなに怪しィに見えへんでしょ?」
「まあ確かに…」

こちらも同じチャイを啜る。甘ったるいものの、スパイスが効いていておいしく感じた。
人懐こい笑顔を浮かべたまま、どう見ても外国人観光客なイグニスは、そっと身を乗り出す。
 
「それで、本題はなんですか?大将が僕に投げてきはるんなら、人探しでしょう?たぶん外国人の。」

…切れ者、というだけあって、話がスムーズに進む。
そんな褒めんといて下さい、と照れ笑いになった彼に、件の紙切れを渡した。

「アサシン組織のボスを殺して逃走て…えらいまた物騒な…しかも子供やないですか。」

声を殺して呟き、紙切れからこちらに視線を移した彼が、続ける。

「知りたいのは行き先ですか?それとも身元ですか?」
「身元の方だ。」
「わかりました。ほなちょっと…せやなあ、2日くらい頂けたら。」
「…種族は解っているのだが、もっと縮まらないか?」
「リンクルって解ってて、それでも身元が解らはれへんのでしょう?結構な難題に見えますよ。」

そのとおりである。
少数種族だからと、上は高をくくって行き先と身元を洗ったが、全く何の情報も得られなかった。
ご丁寧にも、自分に関する資料は全て盗んでいったようで、捜査は難航するばかり。
結局行き先の方を重点的に探すことになり、身元は保留事項になったのだ。
とっつかまえれば身元くらいは吐くだろうという考えのようだが。

「なんとなくだが、多分彼女は捕まらないような気がしている。今回依頼したのは、私の…個人的な興味といってもいいかもしれない。」
「そうですねえ…僕もそう思います。なんせ女性は謎があるほうが魅力的ですからねェ。とにかく、全力でできる限りは調べさしてもらいますよ。」
「…頼む。」



ほなまた2日後に来て下さいね、と笑うイグニスと、喫茶店の前で別れた。
…と思ったら、そうそう、とまた此方に向き直る。

「この子の名前、コードネームでええんですかね?」

情報を書いた紙切れを見ながら、彼は微笑んだまま尋ねてきた。

「組織では別のコードネームがあったが…まあ偽名だろうな。」
「でしょうねェ…や、わかりました。ありがとうございます、ほなまた2日後に!」











2日後、情報屋を訪れたら、店主とイグニスが待っていた。
若干苦笑いしながら渡された書類には、決定的な情報はなかったものの、思った以上のものが含まれていた。



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メイプル(仮)についての報告書

名前 : 本名不明。メイプルと名乗ることが殆ど。他、ジュリア、カンナ等一貫性は無い。
年齢 : 13歳。(13年前の事件(下記参照)が同一人物の場合。)
性別 : 女。
種族 : リンクル。
出身地 :不明。

備考 :
リンクルの遺伝子は他人種に比べ劣性の部分が多く、メイプル(仮)はリンクルの特徴的な姿形を残していることから、ハーフ等ではないと考えられる。
リンクルの村の出身ではなく、種族の記録にも無い。
子供が行方不明等の情報もなく、行方不明になったリンクルの情報も無い。
以上により、隠された私生児、またはそれに準ずる出かと思われる。
親が亡くなった可能性もあるが、種族の管理が細やかなリンクルの情報に漏れは考えにくい。
総合して、出身は不明。
但し、親のいない子供の保護施設前に捨てられているリンクルが13年前にいたという情報がある。
保護されて3ヵ月後に行方不明。施設より子供十数名が盗まれ、海外に売られた事件があり、その一人であった模様。
髪色・種族の少数さ・年齢等から、上記メイプル(仮)と同一人物かと思われる。※事件当時の新聞記事を添付。
盗賊団に5歳程度で在籍していたという情報があり、確実に本人である情報では一番古い。
それを筆頭に、基本的に裏組織に身をおいている。※身をおいた組織のリストを添付。
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「思ったより情報が集まらなくてねい。」

星の国の葉巻をぷかぷかさせながら、店主も苦笑いした。

「…とんでもない。よくまあ二日で、種族をあたったものだ。組織も、こんなに転々としているとは知らなかった。」

実際、少ない情報ではあるが、自分の組織はこの情報すらほぼ持っていなかったのだから。リストと、新聞記事をみて感心する。
ああ、それと…と、イグニスが差し出したのは、一枚の写真。

「写真も、無くなってたんでしょ?きれいな子やないですか。こんな子がアサシン組織のボスを…なんて、考えられませんわ、僕。しんどい人生、送ってきてるんでしょうね。」
「…そうだな。十分だ。ありがとう。」

複雑そうな表情のイグニスから写真を受け取る。この情報も写真も、誰かに見せる事はないだろう。
子供と思えぬ冷たい表情をした、藤色の髪の少女が、写真の中で寂しそうに笑った気がした。
| 創作覚書 | 23:46 | comments(0) |
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