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またたき
隣に座った女が、難しそうな書類に何かを書いている。
仕事ができれば何でもいい。こんな子供でも、生活ができれば。

「まだ10歳くらいでしょ?よく大人と戦って勝てたわねえ。…さ、字はかける?」

質問には、少しだけ と答えた。

「そ。じゃあ、私が代筆するわ。最後の署名があれば、あとは答えてくれれば。」
「…はい。」
「まず意思確認。あなたが今から入ろうとしているのは窃盗団よ。捕まったらオワリだし命の保障もないわね。そのあたりは聞いてるでしょうけど、いいのね?」
「はい。」
「OK. じゃあ、あなたの名前は?」

ペンを動かしながら、女は特にこちらを見ずに尋ねる。
いつものように、適当な名前を名乗ろうと思った。




「   」




唐突に、一つの名前が思い浮かぶ。
あれ、と思った。いつも適当にしているんだから、思い浮かんだ名前でも適当に名乗ればいい。
けど、だめだと思った。この名前は言っちゃいけない。
どうして?

黙った私に、女が名前をもう一度聞いてくる。
さっと言えば怪しくなかったのにな。しまった。

「…名前、ない。メイプルって名乗ってる。」
「…そう。孤児だったらそうかもね。じゃあ次は…」

少し怪しまれたかもしれないけど、女はそのまま喋り始める。
適当に返事をしながら、さっきの名前はなんだろうとぼんやり考えていた。

答えはまだ、ない。
| 創作覚書 | 18:47 | comments(0) |
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