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ふたり 一
「…どう。いっちょあがりってとこかな。」

その言葉で、デュカの視界を奪っていた映像は掻き消えた。
目は急な視界の変化についてこれないようで、くらくらする。
ニナにリオン、アスタロートにケンジとレド。色視能力者の今期神官見習いヨハン。視界の端には、乗ってきたであろうヒポグリフが見えた。
異変を感じ、自分達の後を追ってきてくれたのだとデュカは考える。
その後ろには恐らくアナマリアや陛下がいて、皆に心配をかけて…
自分が迂闊だったばかりに、と考えるより、元いた場所に帰る事が先だ。

「…悪趣味ですこと。」

じろりと睨みつける彼女の目線に、女は薄笑いを返すだけだ。



妙な場所にいた。果てしなく白く、そこにはデュカ本人と…先ほどの映像でニナ達に「メイプル」と名乗った女しかいない。
どこかの部屋とも思えず、あえて表現するのならば…まるで夢の中にいるような曖昧な場所。
ただ、ひどく魔力が濃い。ただ魔力が満ち満ちた、あえて表現するなら海の中に立っているような、魔力に息を奪われそうな感覚の中でデュカは自分を保つことで必死だった。何せ、自分が存在しているのかどうかすらよくわからないのだから。

「いきなりじゃココはキツイだろうけど。君はすぐに慣れるよ。」
「ここは…どこですか。」

一見優しそうな笑みを浮かべる女を、見据えた。
考えを読まれたような気がして、気を張り詰める。

「さあね。それより、仲間…部下なのかな?助けにきたけど。どうするの。」
「さっさとここから出て戻りたい所ですけれど。そうはさせてくれないでしょう?」
「まあね。」
「今私に見せたものは?先ほどまで私達がいた場所ですわよね。」
「そうだよ。私らを襲った奴らが着てたローブの一つに人形を作って…まあ魔力で作った簡単なヤツだけど、それを通して喋った。…って、なんとなくわかってるか、その顔なら。そんな怒った顔しないでよ。」

睨むように見据えるデュカの目に、やはり女は薄笑いを返し…デュカの首に手をのばす。
そっと首筋に手をあてる…それだけだが、デュカは背筋が凍りつくような感覚を覚えた。

「ほんとは腕だけじゃ済ませたくないんだから。」

耳元でつぶやき、すぐに離れる、女。
デュカは、自分の右肩に視線を移す。
そこから先にあるはずの腕は…ない。



**********




遡る事数時間前。
デュカ、オルフェ、ルクスの3人は、20人強のローブ姿の男に囲まれ、襲われた。
3人対20人強。だが人数の差に対して意外にも3人が有利だった。
…というより、戦いにならなかったと言ってもいい。
デュカとルクスが数名を打ち負かし、残り20人弱はものの数分でオルフェの鮮やかな刀さばきに倒れていた。
刀を鞘におさめるオルフェに、ルクスは「峰打ちでここまで…」と驚いた様子だった。

「これでも副隊長を務めておりますゆえ…と言いたい所ですが、どうも様子がおかしい。」
「…敵意はありませんし、それ以上にあまりにも軟弱すぎましたわね。」

首を傾げる彼に、デュカも頷く。
つられて、たしかに…とルクスが呟いた。

「お命頂戴、としか言いませんでしたね…」
「ルクス殿がセイルーンまで来られる時は、襲われはしませんでしたか。」
「ええ…やはりデュカ様が狙いでしょうから、泳がせようとしていたのかも…。」

複雑な表情をしながら、ルクスは気絶している男の一人を覗き込む。
そして、ローブをずらし男の頭部を露わにした。
羽根のような耳に薄い色素の髪。デュカはため息をついた。

「…ちゃんとリンクルですのね。あっけないから、ゴーレムの類かと思っていましたけれど…属性色も皆違いますわ…」
「私もですよ、デュカ殿。生きた者があんなに単純に動く方が意外だ…」

同じようにしゃがんで別の男の顔を見ていたオルフェも立ち上がった。

「…操られていた、とも考えられますな。」
「でもオルフェ様、こんな人数を一気にとなれば…」

呟いた彼の言葉に、ルクスは少し不安げに眉をよせ…次の瞬間、あかい血が散った。

「ルクスさん!!」

腹に穴を開け倒れこむルクスを、辛うじてデュカが抱え、今ルクスに斬りつけたばかりのローブの男をオルフェが打ち倒す。そして治癒を始めたデュカを守るように、構える。
つい今まで意識を失っていた男達は、全員起き上がり臨戦態勢だった。先ほどと変わらず敵意はまるで感じられない。

「正体を考える余裕は頂けないようですわね。」
「…そのようですな。」

二人の会話を聞いている様子でもなく、20人強の男達は一斉に切りかかってきた。
オルフェは、極力デュカ達に被害が及ばぬように応戦する。
そしてデュカも、ルクスを支えながら治癒魔法をかけ、尚且つオルフェ一人で対応しきれない男に魔法で応戦していた。先ほどとは段違いに動きがよくなった男達は、流石にオルフェだけの対応では厳しい。それでも、動ける二人に外傷らしい外傷はない。動きがよくなったとはいえ、この男達の動きは戦闘に慣れた物のそれではなかったからだ。

魔法弾が輝いてはじけ、乾いた金属音が響く。
男達が半数近く倒れた頃には、デュカは応急措置の治癒魔法を終えていた。

「デュカ殿!ルクス殿は私が!」

ぐったりと意識の薄いルクスを支えたまま戦う彼女に、敵の剣を弾きながらオルフェが近づいてくる。
背中合わせになり、一瞬だけ目を合わせ…
デュカはコクリと頷いてルクスを彼に預けた。

「ではお任せしますぞ、デュカ殿。」

オルフェは笑い、ルクスを抱えてその場から素早く離れた。
10名程度に減ったローブの男達は、一斉にデュカへ向き直る。

「お命、頂戴する」

男の一人の声を合図に、全員がそろって剣を構えた。

「そう、急がないで下さるかしら。」
「ご覚悟」

別の男が言うと共に、同じく全員が剣を振りかざして女一人に襲い掛かる。
なんて効率の悪い…そう思いながら、対するデュカは一歩も動かず、右手を翳した。

「天罰覿面…。」

揃って高々と振り上げた男達の剣に、叩きつけるような音をたてて青白い稲妻が落ちる。
当然剣は避雷針となり、まともに稲妻を食らった彼らは、失速し次々と地面に倒れた。

パチパチ、と拍手がおこった。


「あはは、お見事。そしてご苦労様。」
「?!」

その場に不釣合いな拍手と台詞に、デュカは振り返り…唖然とした。

オルフェが、仰向けになり倒れていた。
その腹の上には、ルクスが足を組んで座っている。

「申し訳ない、デュカ殿…」
「黙れ。お前はしっかりと私の話を聞いておけ、劣等種。」

意識はあるが動けないようで、目の前にナイフを突きつけられても、オルフェに抵抗の様子はない。
そんな彼を一瞥し、ルクスはナイフを戻しデュカに向き直った。
衣服は切れ、血がしみているものの、先ほどデュカが施したばかりの治癒魔法で傷は癒えている。

「ルクスさん…あなたは…」
「見ての通りだよ。でも別にダマされたからって恥じることはない。」
「…。私に用があるのでしょう。」
「そういう事だ。大人しく私と来い。」
「…。」
「来る気になるよ。」

す、と手を翳すルクス。その動きにつられるように、倒れていた男達が再び立ち上がる。
デュカは身構えた。不利そのものだが、負ける気はない。

しかし次にルクスが取った行動はデュカにとって意外なものだった。
翳した手には、急激に魔力が集まり…瞬間、その手から八方に散る。
散った先には、立ち上がった男達。
魔力の塊が男の一人に当たった瞬間、男は空気に溶けるように拡散して消え、残ったローブだけが地面に落ちる。周りを見れば、他の男達もすべて消えローブだけが点々と落ちていた。
それは、魔法で動かしていた人形をただすべて消したかのようで。

「…精巧なゴーレムですこと。よくこんな大量に、この状況で操っていましたわね。しかもあなたの色の跡すらない…全員違う色を持っているなんて、手が込んでますわね。」
「…ああ、それで驚かないのか。私はゴーレムを消したんじゃない。…まあ見たほうが早いか。」
「…」

ルクスが再び手を翳す。またその手に魔力が集まるのを感じ…デュカは咄嗟に防御膜の呪文を唱えた。
僅かに遅れ、ルクスの手から魔力が散る。そのほとんどは地面に直撃し、一つは街道脇の木に、そしてもう一つはデュカに向かう。


「…わかったか?」

ルクスが笑った。
辺り一体の地面は抉りとられたように綺麗に穴だらけになり、木は幹の途中からすっぱりと消えている。
そして…デュカを守っていた防御膜と、彼女自身の右腕も袖ごと消えていた。
痛みはない。血の一滴も零れない。最初からそこに腕などなかったかのように。
魔力を感じる力の強いデュカは、自分のこととなりようやく理解した。
先ほどの男達も、木々も、そして自分の腕も…強制的に魔力に変換され「なくなった」のだと。

薄く笑う、目の前の同種族の女。
優しげに笑っていた面影は微塵もない。

支えを失ったデュカのスタッフが、からからと転がった。





 
| 創作覚書 | 21:18 | comments(0) |
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