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ふたり 二
「腕を無くすなんて思っていませんでしたわ…痛みがなくて何よりですけど。」
「流石最高神官様。気丈だねえ。」

けらけらと笑うルクスは、心底楽しそうである。

 
 
「あなたの目的は何ですの。種族の問題?私の両親のこと?」

一息つき、デュカは穏やかに目の前の「ルクス」と「メイプル」の二つの名を持つ女に問うた。

「さあねえ。他に質問は?」

少し考えるそぶりの後、ルクスは逆に問いかける。デュカが少し眉をひそめたのは、見逃さなかった。

「…まだあなたには仲間がいらっしゃいますわよね。襲ってきた方々の中にはいらっしゃいませんでしたわ。」
「仲間…お前を迎えに行った男のこと?」
「そうですわ。」
「ははは。私には仲間なんていない。私達を襲った奴ら、あれはただのリンクルだ。私が操っただけさ。でも、あの男は違う。」
「…?」
「あれはね、デュカ。私だよ。」
「…。」

ルクスの指が、やわらかな動作でデュカの顎をとらえる。
正直な所、恐怖だった。
20名強のヒトを操り、簡単にその存在を消す力を持っている女が、目の前にいる。このまま彼女が力をこめれば、きっと自分など容易く消えてしまうだろう。でも、恐怖していると、悟らせてはいけない。

「…よく、わかりませんわ。」

まっすぐ見詰め、少し笑みを浮かべたデュカの唇に、ルクスは指を滑らせる。

「考えないの。」
「そんなことを考えているような余裕のある状況かしら。」
「全くだ。じゃあ見てな。」

にい、とルクスは笑った。
一瞬何がおこったのかわからなかった。
笑った目の前の顔が、一瞬にして…あの、突然の来訪者の顔になっていた。
顔だけではない。背もなにもかも全て、紛れも無いあの男。
こんな間近で変身能力を見るのは…初めてだった。

「この顔で、この声で この背格好だっただろう。」
「…変身ですか。大層なものをお持ちですのね。なかなかいませんわよそんな方。」

皮肉るつもりで言おうとしたが、素直にデュカはその力に驚いてしまった。
変身というものはとかく難しいもので、一般的ではない。
努力と天性の才能、ずばぬけた魔力と魔法のセンスがなければ、かじる程度もできないだろう。
何の苦もなくさらりと変身したルクスは、それだけで力があると言う事がよくわかる。国家に属する人間として、冷静に考えてしまった。国家的な、危険因子が目の前にいると。
しかし彼女は自嘲ぎみに笑い、信じられない言葉を口にする。

「お前にもできる。」
「…そんな力、私にはありませんわ。」

笑いながら元の姿に戻るルクス。
どこかで感心しながら、この女は何を言っているのだろうと思った。
自分の能力くらい判っている。魔法を使うセンスにはそこそこあるし、色視能力という稀有な能力も持っている。魔力だって強いほうだと自負しているが、警備隊の手練の導師達とまともに戦ったりすれば、簡単に負けるだろう。
目の前の女のような芸当は、今までしたことなど無い…できる筈もなかった。

だがルクスはじっとデュカの瞳を覗き込んで低く唸った。

「魔法を使うための勉強も、修行も、呪文も私達には不必要なことだ。変身なんて容易い。」
「そんな事…」
「…お前は知らないだけだ。…何もな。」

その声にほんの少しの寂しさを感じたのは、気のせいだろうか。

「お前の知りたいことを教えてやる。」

頬を両手で包み込まれた。恋人同士がキスの前に見詰めあうように。
抵抗しても仕方ないので、デュカは黙って彼女を見詰めるだけだ。

「思い出せ。お前が思い出さなきゃ何も始まらない。」

笑みは消え、真剣で…どこか泣きそうな顔に見える。
そう思った瞬間、目の前が真っ白になり、魔力の奔流がデュカを襲った。


 
| 創作覚書 | 20:29 | comments(0) |
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