<< 不老と不死の終わり | main | 妖怪は憂鬱 一 >>
うつりゆくひと 五
ボタリ、と血が落ちた。
腕を、やられたようだ。最もこの程度の傷、わらわにとっては大したことではない。
 
「ミリル…弱くなったね。僕が守ってあげる。だから一緒においで。」

「なめるなよ小僧が。」

目の前にいる青年には、かつて少年であったころの面影しかない。しかし、変わり果てていた。
ガシャリと、金属のおとが響く。彼の背から、鎌のような武器が生えている。
不老不死など望みおって。人の体を無くしてまで。

「君の強さは知っている。でもこれが証拠だ。僕にやられるなんて、弱くなったとしか思えないよ。…でもやっぱり、その力は厄介だね。」

先ほどやられた腕は、不死の力で最早傷跡もなくなっている。それを見ながら、目の前の青年は笑う。

「ねえ、その力…不老不死があれば、僕も君と一緒に生きていけるんだよ?」
「お主の答えはそれか?」
「ねえ、愛しているんだよ。僕と一緒に生きよう。」
「愚かなことをほざくようになったな、お主は。そんな心などもう無い事くらい、わかるぞ」

鉄球となった片目を、見詰めた。こやつは体をサイボーグ化することで、何を得たのだろうか?

「…ばれているんだね。本当に『愛していた』…でも君といても、愛されている実感ができなかった。僕の告白を受け入れてくれた後でも、君は何も変わらなかった。」
「…。」

それは、当然だ。弟のような、そんな気持ちを抱いていたのだから。もしかするといつか変わるかもしれないと、自分自身に期待していたのだから。

「ねえ、でも、やり直せるよ。僕と一緒に組織においで。そこで不老不死の研究をしている。君がいれば、何かわかるかもしれない。そうしたら、僕も不老不死を手に入れて…」
「黙れ!!!」

ああ、わらわの中の化け猫が怒っている。
体中に、印が浮かぶ感覚。低い唸り声は、まぎれもなくわらわのもの。
化け猫の怒りとともに、わらわはこの青年の、バーニィへと飛び掛る。

「くっ…!!」

一瞬で、勝敗は決した。
背から生えていた鎌は千切れ落ち、ガトリング砲のような義手も破壊されている。
そして、バーニィはわらわの下に押さえ込まれている。首元にはナイフ代わりの鋭い爪を。

「このまま殺してやることもできる。道を踏み外したお主への最後の餞としてな。」
「…くそっ!!愛しているのに!愛しているのに!!」
「空しい言葉じゃの」

この期に及んで涙を流すバーニィを、わらわは冷ややかに見ることしかできなかった。
ああ、それでも。

「…去れ。二度とわらわの前に現れるな。次はもう見逃さぬ」
「…!!」

驚いたように見開いた瞳を見やる。

「さらばじゃ、永遠に」
「ミリ」

呼ばれる名前を最後まで聞くことなく、わらわはその場からバーニィを強制的に転移させる。
ボロボロの姿で組織へ戻れば、それなりの罰も受けるだろう。
殺してやったほうがよかったのかもしれない。
ああ、それでも。
子供の頃から見ていたお主を。
わらわは、殺すことができなかったのだ。

 
| 創作覚書 | 19:15 | comments(0) |
コメント
コメントする