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長い髪の記憶
4歳

「その髪も、その目も、お前はぜんぶ私に似てしまったのだよ。」
小さな私を抱き上げ、お父様が寂しそうに笑う。
髪を撫でてくれる大きな手は、あたたかい。
さびしくないよ、と頬にキスをした私を、ぎゅっとお父様は抱きしめてくれた。
あったかくて、安心する。
私、本当のお母様にはとても似ているのに。
そう思っても、言葉にはしない。
お父様は、本当のお母様の話をすると、怖い目をするから。



6歳

お父様のお顔が、暖炉の炎でゆれている。
その手には、紐で括られた、ひと房の青い髪。
「それも、もやしてしまうの?」
私の声に、お父様はかぶりを振る。
「お前のお母様の髪だ、こうやって大事にするよ。」
金色のきれいな宝石箱に、血のつながらないお母様の髪が納められた。
その後、それらを見ることはなかった。



10歳

お父様は時々、私の髪を結って下さる。
慣れた手つきで、私の波打つ長い髪は編まれてゆく。
「終わったよ、ほらかわいくできた。」
振り返って見上げた。お父様の微笑みの奥にあるのは悲しみ。
「ありがとうございます、お父様。」
悲しみは見なかったことにし、私は笑う。
「本当に、似てきたね。」
誰に、とは聞かなかった。ずっと知っていたから。



14歳

お父様の部屋のランプが、減っていた。
カーテンは閉められ、朝だというのに薄ら暗い。
「髪がずいぶん伸びたのだね。久しぶりに私が結ってあげよう。」
すがるような表情を、無視することはできない。
「……では、お願いします。」
お父様の顔には嬉しそうな笑顔が広がり、私はそれを少し苦く感じた。
椅子に座ると、櫛で髪を梳いてくださる。
……ひと房を持ち上げ、お父様は口づけをした。
「妹も、綺麗なゆらめく髪をしていた。」
ひやりとし、体を強張らせたが、そのあとは何事もなく髪を結われる。
「ありがとうございます、お父様。」
お父様から離れると、いつもの悲しそうな瞳の奥に、暗く燃える炎。
見たことのないそれに、本能が警鐘を鳴らす。
「もっと甘えてくれて良いのだよ……。」
炎がゆらめく。絶対に、触れては、いけない。
「今から、デュカとの約束がありますので。」
一礼し、逃げるように部屋を出る。

翌朝、鏡に映る自分の顔を見て悲鳴をあげた。
左の頬に、呪印が浮かんでいた。



「お父様」
「これは、まさかお父様が」
「どうして、こんなことを……」
答えは、返ってこない。
呼びつけられた薄暗い部屋の中、お父様に抱きしめられているのは、私。
親子の情であってほしかった。
「今日も」
私の肩に顔をうずめていたお父様が、顔をあげ、瞳の炎を燃して笑う。
「髪を結ってあげよう」
私の波打つ髪をひと房、つめたい手で持ち上げ、口づける。
「妹よ」
真っすぐに私を射抜こうとする赤は、もう娘の私を見てはいない。

「私は、お母様じゃない!!!」

吠えて父親を突き飛ばし、自室へ逃げ帰った。
鋏をつかみ鏡の前に立つ。

長い髪を切り落とした。
| 創作覚書 | 23:40 | comments(0) |
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